第16話 やっぱゲームだし、楽しまなくちゃな? (2/2)

硬い。俺のパンチは確実に当たった。男は防御すら取らなかった。なのにダメージを与えられている気が一切しない。ちょっとマズったか……?

「最後の忠告だ。失せろ。今なら見逃してやる」

ちらっと後ろを見る。女性は怯えて腰が抜けてしまっているらしく、足に力が入っていない。もし俺がこの場を離れたら……どうなるかなんて想像に難くない。 所詮はゲームなのだし、俺がここからいなくなっても何も起こらないかもしれない。でもだからといってここで見捨てるのは──あまりにもかっこ悪いよな?

「上等。お前だけじゃなくそこの二人も同時に相手してやるよ」

ここまで感情が高ぶったのはいつぶりだろう。興奮すると覚醒するとか記憶がなくなるとか、そういうことはないけど、でも。

「やっぱゲームだし、楽しまなくちゃな?」「ごちゃごちゃうるせぇ!」

大男の拳は素早いだけで軌道は単純だ。簡単に避けられる。あえて紙一重で躱しカウンターを打ち込む。だがやはり手ごたえがない。

「こっちもいるって!」「忘れてないよな!」「もちろん」

両脇から男二人が挟撃してくるが、こちらは大男よりもスピードがない。上下に分かれて攻撃してくるのは連携っぽいが、だがそれだけだ。タイミングが合っていない。 まず頭を狙った拳をかがんで躱し、胴を狙った蹴りをわざと受ける。

「入ったァ!……あ?」

思った通りそこまで痛くはない。 攻撃に使った足をそのままつかみ、時計回りに回転させる。すると男は面白いほど簡単にバランスを崩し地面に倒れこんだ。

「次はお前」

攻撃が躱されたことで無防備な体制になっている男にしゃがんだ状態から起き上がる力を利用して顎に一撃。今度は手ごたえがある。

「これで一対一だな」「ふん。雑魚が」

今のは取り巻きに対しての言葉だろう。大男からしたら確かに雑魚なのかもしれないが、仲間にかける言葉としてはだめだ。

「忘れてないか? お前の攻撃は俺には効かない」「そんなの、色々試してみないとわからない」「……減らず口を」

今度はこちらから仕掛ける。狙うは足。近づいていき急にしゃがむ。そして足払い。

「転ばせようとは考えたな。だが残念だ。力が足りないわ」

上から迫る拳を見て一旦下がる。 だがどうする。こっちの攻撃は効かず、向こうの攻撃は避けられる。このままじゃジリ貧だ。何かないのか……この状況を打開できる策は……!