第17話 考え付いた唯一の策 (1/1)

必死に打開策を考えるが、長々と模索する時間なんてこの大男がくれるわけがない。まるで狩りを楽しむかのように、段々と攻撃のキレがよくなってきている。 ……実は策が全くないわけじゃない。だが啖呵切った手前そんなことはしたくない。

「どうしたどうしたァ! 息上がってきてるんじゃねえか!?」

大男の攻撃が過激になっていく一方なのに対し、俺はと言えばスタミナがかなり減少してしまっている。これじゃあジリ貧どころか負けが濃厚になってくる。 仕方ない。これだけはやりたくなかったが、もしかしたらこれが正規なのかもと希望的願望を天に託して、恥を忍んで、考え付いた唯一の策を実行する。

「動けますか?」「え……?」「俺につかまってください」

それなりに戦闘の時間があったので、多少は体が動くようになった女性に、俺の体につかまってもらうようお願いし、しっかり掴まったのを確認。

「何もしゃべらないように。舌を噛みますよ」

大男の攻撃の合間を縫って作り出した一瞬の隙を見逃さず、俺は跳躍した。 中空に躍り出た俺の体は、重力に従って下へと落ちていくが、地面に着地する前に壁を蹴り、もう一度上昇。対面の壁を交互に蹴ることで家の屋根まで登った。 まぁ、うん。唯一の策ってつまりは逃走だよね。

ある程度走って、あの大男が追ってこないのを確認した後に女性を開放する。女性もまさか逃げるとは思っていなかったようで、少し驚いたような表情をしている。

「あの、大丈夫ですか……?」「だ、だいじょぶ、ですッ……!」「全然大丈夫なようには見えませんが!?」

残り少なかったスタミナを逃走ですべて使い切ってしまった。息切れのような呼吸のしづらさと倦怠感が俺を襲う。だけど少し深呼吸をすれば多少は回復して、普通に話せる程度にはなる。

「それより、大丈夫でしたか?」「え、ええ。あなたに助けていただきましたので」「助けたなんてそんな。俺は逃げただけです」「いえ、過程はどうあれ今こうしてあの男はここにいないではありませんか。これを助けていただいたと言わずしてどうします」「はぁ。でも本当に大したことはしてないので、あんまり気にしないでください」「そんなことはできません。何かお礼をさせてください」

これってやっぱり何かのイベントかな?

「ぜひ家へいらしてください。夜遅くですが、ご迷惑でなければ」「じゃあお言葉に甘えて」

みすみすイベントを逃すわけがない。俺は女性の案内で、彼女の家へと招待された。 彼女の家に向かう途中、彼女のことについて教えてくれた。名前はミカといって、なんと17歳らしい。すらっとしてはいるが出るところはちゃんと出ていて、雰囲気も落ち着いているから20代中ごろくらいだと思っていたが、まさかそんなに若いとは。暗く人通りの少ないあの場所を通っていたのは家への近道だったから。なんで外出していたかというと。

「母が病気なんです。あ、でもそんなに重い病気じゃなくて、薬を飲み続ける必要はあるけど、日常生活に支障が出ることはほとんどないだろうってお医者様が」「それは……」「でも今日は違ったんです。突然母が苦しみだして、私どうすればいいかわかんなくなっちゃって」「それで薬を?」「はい。最初はお医者様のところに行ったんですが、事情を説明したら薬を飲ませれば治まるって。でも在庫がないから自分で買ってくれと言われたんです」

医者のいう通りに自分で薬を買ったミカは、一刻も早く母のもとへ薬を届けるべく、普段は絶対に通らないようなあの道を使ったのだという。

「それじゃあ早く届けてあげないとな」「……はい」

ほどなくして、彼女の家にたどり着いた。