第73話 神楽流道場 (1/2)

「ぶーぶー」「あからさまにぶー垂れないの」

ボスアーミーアント──アーミーアントマザーというらしい──との戦闘はあっけなく終わった。うきうきしていた朱音が不満たらたらで死体蹴りするくらいには。 いやね? 確かに普通のアーミーアントに比べ図体が大きいから攻撃力はそこそこあると思うし防御力もかなりあった。

でも逆に俊敏さはなくなってて攻撃を避けるのは簡単だし、蟻酸っていう溶解液を射出する新技もあったけど溜めが長すぎて避けるどころかキャンセルさせることもできる。 こんな相手にどうやって苦戦しろと?

「数で攻めてくる系の敵はこんなもんだよねぇ……わかっててもモヤモヤする」「もしかして攻略法間違えた?」

波のように攻めてくるアーミーアントたちを掻い潜って巣に辿り着き、大本であるアーミーアントマザーを撃破する……なんていう攻略法だった場合、すべてを迎え撃ってからここにきた俺たちはイレギュラーってことになる。

「っていうか、全戦力を投入したここのボスがあほだっただけだと思うよ」「なんでそんなことしたんだろう……」

確かに戦闘中に何度か大きな音を立てることがあったし、もしかしたらそれで仲間を呼び寄せるのかも。もしそんな状況だったらかなり苦戦した可能性はある。

「終わったことは仕方ない! 帰ろっか」「報酬とかは?」「ないよ?」「ないの!?」

楽勝だったとはいえボスでしょ、なんで報酬ないの……?

「報酬ってわけじゃないけど、ここを攻略する過程で戦闘がたくさんあるから、そのおかげで技能を会得しやすくなってるよ」「修練場的な感じなのか」

確かに、俺もアーミーアントとの戦闘とアーミーアントマザーの戦闘で技能のランクが上がっている。既得技能の上位互換は会得できたけど新しいのは無理だった。肉弾戦したのに体術みたいなの会得できないのか……。

「そもそもここは攻略する必要のないところだし……こんなところを攻略するもの好きなんてほとんどいないでしょ」「ここに二人」「それはまぁ、チャンスだったし?」

あまりのボスの弱さに落胆する朱音と、まさかの報酬がないという事実に落胆する俺。本当になんでここに来たんだと思いたくなる。 とはいえ終わったことは仕方ない。朱音も切り替えてるみたいだし、俺も切り替えないと。 俺たちはグダグダ喋りつつアーミーアントの巣を後にした。

アーミーアントを大量に倒したということは、課された試験を乗り越えたということだ。まだまだ元気が有り余っている朱音と、再び道場に戻ってきた。