第53話 精霊化 (2/2)

フィリアは聖母のようなほほえみを俺に向けてくれる。間違いない。ユートピアで一番の癒しは彼女だ。異論は認めない。 だけどいつまでもそれに見とれているわけにもいかないので、ここに来た本題を話す。

「なるほど、そのミカさんという方を精霊にしてほしいと」「はい、無理を承知でお願いします」「そうですね……いいでしょう。精霊化、やってみましょう」「本当に!?」「ですが、いくつか注意点が。わたくし自身、精霊以外の魂魄に触れるというのは初めてと言っても過言ではなく、精霊化という技術も長らく使っていないため成功するかどうかはわかりません。もしかしたらミカさんの魂魄に何らかの影響が出てしまう可能性すらあります。それでもやりますか?」「お願いします」

現状、ミカを救える手段はこれしかない。だから今の俺ができることは、精霊化が成功するよう祈る事だけだ。

「……わかりました。精霊石を」「これです」

インベントリからミカの精霊石を取り出し、フィリアに渡す。 フィリアはミカの精霊石を胸に抱く。埋もれて見えないが、たぶんフィリアの精霊女王としての力を注いでいるのだろう。精霊石を作る時の光に似ている。 数十秒ほどそうしていたかと思うと、今度は玉座のほうに歩いていく。そして玉座にミカの精霊石を置いた。

「イグニス、アクア、テラ、アニマ。あなたたちの力を」

どこかいつもとは違う声色のフィリアに声を掛けられ、素直にそれに従うイグニスたち。俺もアニマも、もちろんイグニスたちも、目の前で起こっていることがあまりにも神聖的すぎて、声を発することができていない。

「ゆっくりと、少しずつ力をわたくしに」

こくりとうなずいて、各々フィリアに力を与えていく。イグニスからは赤、アクアからは青、テラは黄、アニマは緑の線がフィリアとつながる。 四大精霊の力を借りて精霊化という奇跡を起こそうとする精霊女王の目の前で、玉座に置かれた精霊石が宙に浮く。

「汝は力。汝は魂。その身を捨て回帰せよ──」

フィリアの口から、呪文のような言葉が紡がれる。それに呼応するように、精霊石が光を放つ。

「純然たる力の具現。純粋たる魂の顕現。我願うは汝の回天なり──」

光はその眩さを増していく。もうその姿を見ることは能わず、フィリアやイグニスたちも光にのまれていく。

「精霊女王によって命ずる。汝、聖霊となりて再来せよ──!」

ついには何も見えなくなった。白一色に埋め尽くされた視界の中、俺は確かに何かが割れる音を聞いた。