第29話 イグニス (2/2)

〈火の精霊【サラマンダー】を仲間にしますか?〉

抵抗することなく俺の手に乗ってきたサラマンダーを眺めていると、こんなウィンドウが表示された。 え、仲間? そりゃできるならしたほうがいいんだろうけど、俺の目的は鱗なわけで。いや仲間にすれば鱗なんていつでももらえるか。

〈仲間になった【サラマンダー】に名前を付けますか?〉

仲間になることを選択すると、次は名づけを聞かれた。もし戦闘でサラマンダーを使えるなら、何か別の名前のほうがいいんだろうか。長いし。あと名前を付けると愛着が湧くともいうし。

「お前の名前はイグニスだ」

ラテン語で炎を意味する、そのままのネーミングだけどまあいいでしょ。イグニスも喜んでるみたいだし。 しかしどうするか。俺はてっきりサラマンダーにあって鱗をどうにかしてもらおうと考えていた。なのに実際は鱗をもらうのではなく仲間になってしまった。それに見た感じサラマンダーの鱗はとても小さい。この程度で素材たり得るのか?

「一応火属性っぽい別の素材持って行くしかないか」

とりあえずほかの精霊のところにも行ってみて、そこでどうなるかやってみてから相談しよう。いちいち聞かれて答えるのも面倒だろうし、もしかしたらほかの精霊も仲間になるパターンかもしれないしね。 イグニスは俺の左肩に乗った。落ち着く場所を見つけているらしく、ちょっと動いてはもぞもぞして、気に入らなかったのかまた動いてを繰り返している。移動中には決まるだろう。

「次はウンディーネ、ノーム、シルフの誰か……サラマンダーがこんな感じだったってことは、他の精霊も?」

ウンディーネは水場、ノームは……よくわからない。シルフもよくわからない。それぞれ土と風の精霊だからそれに関係する何かなんだろうけど……。 考えながら歩いていたので、あっという間に外に出ることができた。

「いったん帰ったほうがよさそう?」

巨木を中心としてそこから真っすぐ来たから、一度巨木に帰って別の方向に行くべきか? それともここから来た方向とは別の方向に行くべきか?

「巨木を基準にしたんだし、一回帰るか」

途中で基準を変えると何が起こるかわからない。何も起きなければいいけど、だいたい面倒なことが起きる。迷子とか。 俺は来た道を戻り、巨木へ向かうことにした。