第29話 イグニス (1/2)

「やっぱりここっぽいな」

火山についた。同時に、俺の予想が正しかったとわかる。なぜなら、巨木と同じような扉がついているからだ。何もいないのに扉を付ける意味はない。 もしかしたらサラマンダー以外の精霊という可能性があるが、その時はサラマンダーの場所を聞くだけ。 どちらにしろサラマンダーへ一歩近づいたということだ。

「入るか」

ギギギと音を立てながら扉を開ける。不可思議とはいえ火山の中だ。果たしてどんな光景が待っているか……。

「あれ?」

意外や意外。火山の中はとても静かだった。 外ではあれほどマグマが流れ噴石が飛んできていたというのに、火山の中はそれらが一切ない。ただの洞窟みたいだ。 広さは人一人分くらいで、一本道のように先まで続いている。この先にいるということ?

「よし、行こう」

念のため不意打ちマグマに注意しながら、洞窟を進む。 洞窟は光源が一切ない、岩肌むき出しの状態だけど、全く暗くない。【夜目】が発揮されているわけでもなさそう。まぁ精霊だし、と納得するほかないか。 洞窟は特に分かれ道があるわけでもなく、曲がったり登ったり降ったりするだけだ。それに少しづつだけど広くなってきている。

「ここ、かな」

行き止まり。というか扉だ。俺の背丈の三倍、横方向にも三人は並べるほどの空間の壁面に、重厚な両開き戸がある。扉には繊細な装飾が施されており、入り口にあった扉とは雲泥の差。この先に何かがいるということを暗示しているみたいだ。 特に消耗していないけど装備のチェックをして、いざ扉の向こうへ。

「ここは……」

扉の先には、とても広い空間が広がっていた。大きさ的には学校の体育館くらい。地面は平らだけど壁や天井は岩肌むき出しでごつごつしている。道中には見られなかったマグマも流れてるし。 そしてなんといっても、入ってきた扉から反対にまっすぐ行ったところにある小さな台のような岩。その上に赤く光る何かがある。 コツコツと足音を立てながら近づいてく。ないとは思うけど戦闘になることも考えて剣に手をかけながら。

「これが……サラマンダー?」

台のすぐそばまで来ると、赤く光っていたものの正体がわかる。 トカゲだ。両掌に収まる程度の、体表が赤く発光するトカゲ。トカゲにしてはずんぐりむっくりしているような気もするけど、まあ精霊だし。