第1話 へんじがない、ただのしかばねのようだ。 (2/2)

今ピクッと動いたような?

「……大丈夫ですか?」「……よ」「え?」

何やら言葉を発したようだが、雨の音だったりそもそも声が小さかったりでよく聞こえない。

「全然、大丈夫、よ」

全然大丈夫じゃなさそうな声ですが?

「心配、しないで。これくらい……」

女性はそう答えると、電柱に手をついて立ち上がろうとする。 随分ゆっくりと立ち上がった女性はその顔を俺に見せる。今まで俯いていたし長い黒髪のせいで顔が見えなかった。ワンチャン口裂け女とかそこら辺の妖怪の警戒もしていたのだが、どうやら杞憂だったらしい。

その女性はとても美しかった。テレビで見る女優とはまた違った美しさというか、完成された〝美〟というか。間違いなく一目惚れされた回数は数えきれないレベルだろうとわかる。俺も危うい。

「ちょっと疲れていただけ。もう大丈夫よ」

うん、大丈夫そうには見えない。 本人的にはしっかり立っている認識なのかもしれないが、俺から見るとふらふらしてる。顔も白いし唇なんて青くなっている。とにかく早く温めないと風邪どころの騒ぎではなくなってしまう。

「全然大丈夫じゃないっす。どこか行く当てあります? ないならうちに来てください。ここから近いんで」「……うん。じゃあお言葉に甘え、て」

ガクンと一瞬女性が脱力した。すんでのところで支えられたが、できていなかったら今頃膝が……恐ろしや。

「歩くのも辛いですか? 支えるので気を付けて歩きましょう」

背負ってあげられればいいのだろうが、生憎と俺はひょろひょろ。授業以外で体を動かしているわけではないので支えるだけで精いっぱいだ。 ただ幸いだったのはそれ以降バランスを崩したり脱力したりしなかったこと。確かに歩みは遅くなったがちゃんと歩けている。 いつもの倍くらいの時間をかけて、やっと俺たちは家にたどり着いた。