第44話 (1/2)

長かった夏休みが明けて初めての登校日。 皆がどんよりとした表情で長期休みとの別れを惜しんでいる中、なつめはずっとソワソワしていた。

登校時刻5分前にようやくピンク髪の彼女が現れて、慌てて駆け寄る。 スカートのポケットには新曲の歌詞が綴られた紙も入っているため、早く見せたくて仕方ないのだ。

「雅、どうだった?」 「え……」 「電話、したんでしょ?」

興奮するこちらに対して、リアはどこか暗い雰囲気を纏っていた。

「日曜にカフェで一回会ったよ」 「すごい……何話したの?」 「それは……」

どこか歯切れが悪く、よく見れば顔色もあまり良くない。 初めて見る表情に、どうしようもない違和感を覚えてしまう。

それから直ぐに担任教師が教室に現れたため、モヤモヤが解消されることはなく話は途切れてしまった。

9月に入れば真夏ほどの暑さはなくなってしまうため、ポニーテールを卒業して髪の毛を降ろしていた。

食事中に邪魔にならないように耳に掛けながら、ちらりと彼女の姿を盗み見る。 やはり元気がなくて、いつもと様子が違うのだ。

二人きりの空き教室にて、どう切り出そうかと悩んでいれば、彼女の方からとんでもない言葉が溢れ落とされる。

「……断ろうと思う、あの話」 「…え?」

あんなに喜んでいたのに、一体どんな心境の変化があったのか。 訳が分からずに、混乱する頭で必死に理解しようと努力をする。

「どうして…?」 「あんまり良い話じゃなかったから」 「けど、妹の話では悪い事務所じゃないって……」 「……けど、いいの」 「何か変な誘いとかされたの…?」 「そうじゃない」 「じゃあなんでよ」

しつこく尋ねれば、彼女が握り締める拳が僅かに震えていることに気づいた。 グッと感情を抑え込んで、悔しそうにキツく眉根を寄せている。

「……作詞は他の人に頼むつもりだって言ってたから……だったらやらないって言った」

サプライズで見せようとポケットに忍ばせていた、新しい歌詞が綴られたルーズリーフ。

見せなくて良かったと思ってしまうのは、取り乱さずに済んだからだろう。

彼らが認めたのは、リアの歌声と作曲で、なつめの歌詞はダメだったのだ。

天才肌で芸術的センスを兼ね備えた、人を惹きつける才能のある彼女に、なつめの実力は追いつけていなかった。

素人の女子高生ではなくて、天才に相応しい実力のプロに任せるつもりなのだろう。

一度大きく深呼吸をしてから、そっと声を漏らす。