第23話 (1/2)

下駄箱までの道のりを歩く途中、見知った顔とすれ違って思わず足を止める。

緑色のリボンタイを付けた女子生徒3人組は、ついひと月ほど前までは、頻繁になつめの所属する教室にやって来ていた。 以前、モデルをしてくれと教室に押しかけて来たデザイン科の先輩達だったのだ。

なぜファッションデザイン科の彼女達が普通科棟にいるのかと不思議に思っていれば、届いてくる声にどうしようもない違和感を覚える。

「流石にやりすぎじゃない?」 「いやだってうざくない?なんで王子があの子のモデルやるわけ」 「どうせいつものぶりっ子で無理矢理丸め込んだんだよ」 「可哀想、王子」

酷く忌々しそうに吐き出される声は、間違いなく嫌悪感に満ち溢れていた。 自分にかけられた訳ではないと言うのに、ドクドクと心臓が嫌な音を立て始める。

彼女達がやって来た方向には、普通科生徒用の被服室があるのだ。

「……ッ」

本来はファッションデザイン科と調理科、スポーツ科の生徒は普通科とは別の棟で生活をしている。

そのためコンテストの衣装制作は別棟の校舎にて行われているが、以前五十嵐眞帆は普通科の被服室を使わせて貰っていると言っていた。

ファッションデザイン科の被服室は人が沢山いて集中出来ないから、と。

あまりにも彼女がさらりと言ってのけるから、あの時はなんの違和感も覚えなかったのだ。

恐る恐る被服室の扉を除けば、室内にて呆然と立ち尽くす眞帆の姿があった。

「五十嵐先輩…?」

背後から名前を呼ばれて、眞帆は振り向き様に一冊のスケッチブックを背後に隠していた。

いつもと同じ明るい笑みだと言うのに、その笑顔の裏に何かが隠されていることを知ってしまった。

「春吹ちゃん!どうしたの?」

目には深い悲しみの色が広がっていて、周囲を心配させないように無理して笑みを浮かべる。

自分の心にすら気付かぬふりをして、傷ついていないふりをした悲しい笑みだ。

彼女のすぐ前の椅子に腰をかけて、そっと手を伸ばした。

「スケッチブック見せてください」

ゆっくりと、眞帆が首を横に振る。 過去に経験があるため、彼女の気持ちが痛いほどわかる。

いじめられていることを必死に隠そうとして、周囲の人に相談できない。  本当は辛くて仕方ないのに、心配を掛けないように明るく振る舞って、そして一人の時に涙を流すのだ。

「私がなんで先輩の作った服を着ようと思ったか分かりますか?」 「え……」 「嬉しかったから。王子だからっていう色眼鏡なしに私を見てくれて…本当に服作りが好きな先輩の作る服を着てみたくなったんです」

下唇を噛み締めた彼女の瞳が、ゆらゆらと揺れていた。 肩を震わせて、悲しそうにスケッチブックを差し出してくる。

「……酷い」

彼女の想いが詰まったスケッチブックは、殆どのページが黒い油性ペンで落書きされていた。

必死に考えたであろう彼女の洋服達は、落書きのせいで見ることが出来ない。