第132話『頑張り屋さんのお誕生日』 (1/2)

記念すべき雛の誕生日当日、優人の朝は早い。

予定としては昼過ぎに雛が優人の部屋に顔を出し、それから恋人二人水入らずのお誕生日会に洒落込む流れとなっている。つまりはバースデーケーキ作り含めてそれまでに準備を終えなければならないので、今日が日曜日と言えどだらだら過ごすわけにはいかなかった。

<ruby><rb>忙</rb><rp>(</rp><rt>せわ</rt><rp>)</rp></ruby>しなくもあるが、もちろんやる気は十分。手早く朝食と身支度を整えると、優人は早速買い物のために外へと繰り出した。 とはいえ、昨日までのうちに大体の準備とプレゼントの購入は済ませてあり、午前中の買い物は少し足りなさそうなものや、ケーキに使う果物類を買い足す程度。計画は綿密なだけに買い物も滞りなく完遂し、家を出てから一時間も経たずに優人は帰宅した。

購入したものを仕分けし終えれば、次に取りかかるのは部屋の掃除だ。 普段から心がけている簡単な掃除では行き届かない細かいところまでじっくりと、それこそ埃一つ見逃さない心持ちで室内――特に<ruby><rb>雛</rb><rp>(</rp><rt>主賓</rt><rp>)</rp></ruby>にくつろいでもらうテーブル回りを綺麗にしていく。

さすがに誕生日らしい飾り付けまではしないが、その分の労力は清潔さへと注ぐことにする。

掃除が終わればメインとなるケーキ作りへ。 安奈からのアドバイスなどを交えて汲み上げた脳内完成予想図に<ruby><rb>則</rb><rp>(</rp><rt>のっと</rt><rp>)</rp></ruby>って調理を進め、こちらも問題なく完成にこぎ着けた。完成させた直後、どこかに綻びがないかと様々な角度から確認してしまったのは内緒だ。

途中で昼食を挟みつつ、色々な準備を終えて一段落した午後二時過ぎ、施錠してあったはずの玄関が開く音に優人は顔を上げる。 そういえば合い鍵を渡したんだったな、と思い出して笑いつつ、扉の向こうから現れた恋人の姿にまた頬を緩ませた。

「お邪魔します、優人さん」「いらっしゃい」

玄関先で言葉を交わしながら、雛が脱いだ靴を揃えて端に寄せる。そうして振り返った彼女の姿を目にし、優人は少し目を見開いた。

「どうかしましたか?」「いや……どっか出かけてきたのか?」「いえ? ずっと家にいましたけど……あ、この格好ですか?」

優人の違和感の理由を察したらしい雛はくすりと微笑み、その笑みに悪戯っぽい色を加えながら自身を見下ろす。

雛の身体を包む衣服は明らかに外行きの、しかもかなり気合いの入ったコーディネートだった。 トップスはレース素材のブラウス。大胆なことに鎖骨周りから二の腕にかけてが透ける仕様になっており、さすがに大事な部分はインナーで隠されているようだが、うっすらと見える白い肌には心臓がざわつく。

下は雛の腰の細さを際立たせるようなコルセットスカートで、膝丈の裾から伸びる脚線美は相変わらず素晴らしい。 そしてさらさらの髪には、優人がプレゼントした桜の花を模したヘアピンも留められており、最後に満面の笑顔という名の化粧を施した雛はその場で器用にくるりと一回転した。

振りまかれたように届く甘い匂い、それから空気を含んでふわりと浮かび上がるスカートの動きに意識が奪われる。 まるでファッションショーのモデルのような仕草は、これからのことに期待で胸を膨らませる雛の内心を表すかのようだった。