第53話 (1/2)

思い返して見れば出会いは最悪だった。

転校してきた彼女を初めて見たあの日、校則もろくに守らない雅リアという女子生徒とは絶対に仲良くならないと思っていたのに。

人生というのは不思議なもので、何がどうなるか分からない。

まさか自分が大人気女性シンガー、ハルフキリアと同棲して、作詞家として活動しているなんて幼いなつめが聞いても信じないだろう。

人生のターニングポイントがあるとするなら、なつめの場合はどこだろうか。

あの日指輪を交換した時。 初めて曲を作った時。 王子として生活していたなつめを、リアが脅した時。

それとももしかしたら、中学3年生最後の公式試合初日。

当時好きだった人から酷い言葉を投げかけられて、地獄が始まったと思っていたあの日。

生まれて初めてリアの歌声を聴いたあの日が、なつめにとってのターニングポイントだったのかもしれない。

同棲して早5年。 かつて暮らしていた1Kのマンションとは違い、2LDKのセキュリティが頑丈なタワーマンションは広々としているにも関わらず、二人は相変わらず同じベッドに横たわっていた。

ゆっくりと目を覚ませば、なつめの人生を180度変えてしまった女性がスヤスヤと心地良さそうに眠っている。

「リア、起きて。今日リハーサルで朝早いでしょ」 「やだ、まだ寝る…」 「遅刻したらマネージャーさんに怒られるよ?」

彼女のマネージャーは良くも悪くもスパルタで、自由人のリアには案外合っているのかもしれない。

以前遅刻した時にこっ酷く怒られたのがトラウマらしく、のそのそと起き上がっていた。

なつめも布団から出るが、冬だというのに暖房が付いているため暖かい。

床暖房のおかげで、モコモコな靴下を履いていなくても裸足で廊下を歩けるのだ。 これも全て、ハルフキリアが世間的に人気があるからこそ。

かつて貧乏暮らしをしていた時に抱いた憧れを、彼女は全て叶えてしまったのだ。

化粧やヘアセットは向こうでするらしく、すっぴんにマスクを付けた状態でリアが玄関へと向かう。

見送るために、なつめも部屋着姿でその後をついて来ていた。

「いってきまーす。クリスマスなのにさあ、酷くない?」

そういえば4年前も、リアはなつめとクリスマスを過ごせないことに拗ねていた。 あれ以来一緒に過ごすようにしていたが、今年はクリスマスに開催される有名音楽番組から出演依頼が来たのだ。

「今が頑張り時でしょ?頑張って」 「大晦日もだし…有難いけど、なつめちゃんとゆっくりできない……」 「帰ってきたらご褒美あげるから」 「ちゅーしてくれるの?」 「それだけで良いの?」

煽るような言葉を吐けば、リアが見るからに嬉しそうに微笑む。 「考えとく」と喜ぶ彼女を見送ってから、羞恥心に耐えられずその場にしゃがみ込んでしまった。

随分と大胆な言葉を口にしたが、あちらは対して気にしていない。 きっと帰って来れば「マッサージして」や「髪の毛乾かしてよ」などと健全なお願いをしてくるのだ。

「……今日も可愛い」

こんなことを言ってるなんて、リアは知るよしもない。

あれから更に4年が経った。 リアへの想いを綴った片想いソングはかなり人気が出て、噂を聞きつけた芸能事務所から声が掛かってからはとんとん拍子だった。

なつめが作詞、リアが作曲とボーカルを務めることを条件に契約を結んで、少しずつ実績と人気を積み重ねて、今年人気ドラマの主題歌を務めた事でその人気は爆発。

かつての物言いをしてみれば、毎日唐揚げを食べて、ドライヤー代など電気代を気にしなくて済むくらいには贅沢ができる暮らし。