第51話 (1/2)

ケーキは一つ一つが大きくて、普段メイン料理に使用する大皿に盛り付ける。

フィルムを丁寧に剥がして、入っていた紙袋に纏めて捨てようとすれば、袋の奥底に一枚紙が入っていることに気づいた。

「え……」

良かったら連絡くださいと、名前と共に連絡先が書かれたメッセージカード。 間違いなく、あの綺麗な女性がリアに宛てて送ったものだ。

「なつめちゃん、コーヒー淹れようか?」

ひょこりと彼女がキッチンに顔を出して、慌ててそのカードをポケットに仕舞う。 何故咄嗟に隠してしまったのか自分でも分からぬまま、声を上擦らせながら返事をした。

「あ……お願いしようかな」 「えー、3つも入ってたの?わーい」 「有難いけど…やっぱりファンの人とは適度に距離取った方がいいよ。これからは特別扱いせずに、差し入れとかもあんまり……」 「やっぱそうだよね…出待ちが常習化したらライブハウスの人にも迷惑掛かっちゃうし」

何も知らずにインスタントコーヒーを淹れてくれる彼女に対して、ジワジワと罪悪感が込み上げてくる。

「次からは断る」

こちらの気持ちなんてお構いなしに、ケーキを前にニコニコと笑みを浮かべるリアが、改めて可愛いと思ってしまう。

派手だったピンク色の髪はピンクベージュに落ち着いて、それが違和感なく似合ってしまうくらい整った容姿。

スタイルだって良くて、聞いたところ173センチもあるそうだ。

女性シンガーだというのに、ファン層は男女半々ほど。男性からはもちろん、女性からも人気がある彼女は、これから先もっと沢山の人からアプローチを受けるのだろう。

もしかしたら、なつめの知らないところで既に連絡先を沢山渡されて、それに返事をしてしまっているかもしれない。

「……ッ」

ケーキを食べ終わってから、彼女が風呂に入ったことを確認して、先程隠してしまったメッセージカードを眺めていた。

「……渡した方がいいよね」

高いケーキを貰っておいて、この手紙は渡さないなんてあまりにも卑怯だ。 分かっているのに、どうしてかジクジクと胸が痛んでしまう。  「あの人可愛かったな……」

リアは女性が好きな同性愛者なのだから、あんなに綺麗な年上の女性にアプローチをされたら案外コロッと落ちてしまうかもしれない。

そのうちこの家にも帰って来なくなって、彼女と暮らすと言い出してしまったら。

なつめにするようにキスをして、その先を想像するだけで醜い感情がドロドロと流れ込んでくる。

「……っ」

体育座りをして、自身の膝に顔を埋める。 何を彼女ヅラしているのだろうか。

二人は付き合っていないのだから、互いの恋愛に口を出すなんてルール違反だろうに。