第49話 (1/2)

街中では至る所にイルミネーションが煌めいていて、道ゆく人は皆浮き足立ってしまう日。

一年に一度の特別な日で、本来であったら恋人や、友人、家族など大切な人と過ごすクリスマスに、なつめは一人で出掛ける準備をしていた。

先ほどから、リアはベッドの上で拗ねたように体育座りをしてしまっている。

「クリスマスにバイトとか信じらんない……」 「時給100円アップなんだよ?どうせ予定もないんだから別に良いじゃん」 「だからそれは……」

それ以上は何も言わず、リアが口を閉ざしてしまう。 何も約束をしていなかったため、リアは他に予定があるのかと思っていたが、彼女の様子を見る限りそうではないのだろうか。

「バイト何時に終わるの」 「22時」 「遅い……!」

悲痛な声を漏らす彼女が可哀想で、ベッドに乗り上げてからリアの唇にキスを落とした。 慰めるようにぽんぽんと頭を撫でてから、仕方なく玄関へと向かう。

「行ってくるね」 「……いってらっしゃい」

彼女にもらった手袋を両手に付けてから、凍てついた空気の広がった外に出る。

アルバイト先までは15分ほどで歩いて行けるというのに、あまりの寒さに酷く遠い所にあるような気がしてしまう。

時刻はまだ17時だというのに、クリスマスということもあってバイト先のイタリアンレストランは大変混み合っていた。

高級店ではない敷居の低いお店ということもあって、家族連れやカップルなど、たくさんのお客様で賑わっている。

他のバイトの子はクリスマスを理由にシフトにも入っていないため、そもそもが人手不足なのだ。

その日シフトに入っていたアルバイトはなつめだけで、社員に混じってひたすら店内を駆け回っていた。

すっかりクタクタになった体に鞭を打って、私服へと着替える。 帰りにクリスマスケーキでも買って帰りたい所だが、もう既にどこも閉まっているだろう。

コンビニであればかろうじて残っているだろうかと考えながら、スタッフ用出入り口を使って外に出た時だった。

背後から強い力で腕を引っ張られて、驚いて息を呑む。

「……ッびっくりした」

相変わらず唇を尖らせている、ピンク髪の彼女の姿がそこにはあった。

かなり長い間待っていたのか、鼻はピンク色に染まってしまっている。 ギターケースを抱えている姿は、どうしてか彼女の魅力がより増しているように見えるのだ。

「待ってたの?」 「……来て」 「これから?」  右手の手袋を外して、彼女の手を取れば予想通り冷え切ってしまっていた。

温めるように強い力で握り込んでから、片方の手袋を彼女に渡す。

お互いを温めるように指を絡めた手繋ぎ。 クリスマスのイルミネーションが煌めく街を歩いていると、二人の関係を勘違いしてしまいそうになる。

駅に到着してから、行き先は決まっていたようですぐに彼女が電車に乗り込む。

30分ほど快速電車に揺られて到着したのは、夏になれば海辺が賑わうことで有名な駅だった。

しかし時刻は既に夜の11時で、おまけに真冬のクリスマスということもあって海岸には誰もいない。

当然、海に入っている人なんて誰もいなかった。

「……クリスマスはなつめちゃんと過ごしたかったのに」