第40話 (1/2)
以前録音した、リアが作曲した曲をイヤホン越しにリピートして聴いていた。 クーラーの効いた深夜の自室にて、シャープペンシルを片手にジッと考え込む。
今まで描いた歌詞は、失恋の苦しさを歌ったものだった。 爽やかだけど切ない曲調には、失恋ソングがピッタリと思ったけど、夏らしい爽やかな曲に失恋の歌詞は重過ぎる。
相手への未練を書き綴っていた歌詞は全て消して、また一から新しく書き直していた。
失恋はただ重苦しいものではない。 失ったからこそ、前に進めることもあるのだと今年の夏リアから教わったのだ。
「……よし」
失恋当初は苦しくても、時間と共に癒えていく。 かつて好きだった人のことも次第に忘れ始めて、気づけばまた希望に満ちた一歩を踏み出せる。
ただの失恋ソングではなくて、そんな前向きな歌にしたい。
そう考えると、どんどんと手が動いていく。 夢中になって作詞をしながら、こんなにワクワクしたのはいつぶりだろうと考えていた。
言葉を書き連ねることが楽しくて、知らない世界に来てしまったかのように、浮き足立った高揚感に駆られていた。
カーテンから朝日が差し込み始めた頃、そっと机の上にペンを置く。
「で、出来た…!」
おそらく小学生が夏休みのラジオ体操をしているくらいの時間。そんな朝早くに、朝ごはんも食べずに家を飛び出していた。
1秒でも早く見せたくて、部屋着のまま日焼け止めも塗らずに彼女の元へ向かう。
息を乱しながらインターホンを押せば、眠たげに瞼を擦ったリアが出迎えてくれる。
「はよ…朝早くにどしたの、なつめちゃん」 「これ、雅に見せたくて」
一枚紙を差し出してから、画像を撮ってSNSで送れば良かったことに気づく。 完成した喜びで、少し考えれば分かる事にも頭が回らなかったのかもしれない。