第29話 (1/2)

これからキスの練習をしていこうと、あの日リアは確かに言っていた。

恋愛初心者で些細な触れ合いにも顔を赤らめてしまうなつめに合わせて、ゆっくりと階段を上がって行く約束をしてから、一ヶ月も経過しているのだ。

にも関わらず、雅リアとはあれ以来一度もキスをしていないかった。

もう季節は6月後半で、梅雨も終わりを迎えようとしているにも関わらず、練習はちっとも捗っていない。

別にキスをしたいわけではないが、これから慣れていこうと言っておいて、一度もしてこないリアの心境がちっとも理解できない。

パラパラとした雨音が響く放課後の教室にて、リアと共に勉強をする。

2週間後に控えた期末試験に向けて、一緒に勉強しているのだが、先程から彼女はちっとも集中できてないようだった。

「もうやだ!勉強したくない」 「赤点取ったら夏休み中補習だよ?」 「それはもっと嫌」 「なら頑張って」

期末試験は中間試験に比べて科目数も多いため、その分沢山勉強をしなければいけないのだ。

すでにリアの集中力は切れてしまっているようで、つまらなさそうにシャープペンシルをノックして意味もなく芯を出していた。

「遊ばないの。その赤丸で囲んだところさえやれば、赤点は取らないから」 「それをやるのが大変なのに……」

子供のように唇を尖らせる姿をまじまじと見入ってしまう。

派手なピンク髪にぱっちりとした瞳。 今日はマスカラは塗っていないようだが、それでも十分に長くて量がある。

前から綺麗でタイプの顔をしているとは思っていたが、どうしてかいつにも増して彼女が可愛く見えていた。

「今日化粧してる?」 「してない。あ、眉毛とリップは毎日やってるけど」

それは化粧に入んないからね、と何とも女の子らしい言葉を口にしている。

化粧はいつもと変わらないというのに、何故昨日に増してリアが魅力的に見えるのかが分からなかった。

「赤点取らなかったらご褒美ちょうだい」 「いいよ、何が良いの?」 「夏休みどっか行こ」

そんなのご褒美としてでなくても、気軽に誘ってくれたら首を縦に振るというのに。

しかし彼女のやる気を出すために、その言葉をグッと飲み込んでいた。

「赤点取らなかったらね」

参考書に視線を向けながら、どうか雅リアが赤点を取りませんようにと、なつめの方が祈ってしまう。

雨音が鳴り響く室内で、彼女と過ごす夏に想いを馳せていた。

真っ黒のタンクトップに、シースルー素材のロングカーディガン。 幾つもスパンコールが縫い付けられた衣装は一見派手に見えるが、黒色なため上品さを醸し出していた。

ファッションデザイン科3年生によるコンテストまでもう一ヶ月を切っているため、五十嵐眞帆作成の衣装も完成を目前としていた。

被服室にて調整のために衣装に着替えているが、なつめから見ても彼女の作る服が魅力的だと思ってしまう。

ハイウエストなパンツに、厚底のブーツを合わせた衣装は、確かに女性でも男性でも着られて、尚且つスタイルがとても良く見えるのだ。