第8話 (1/2)

相変わらずガヤガヤと賑やかな教室で一人、なつめはこっそりと自身の鞄の中を覗き込んでいた。 休日に妹と出かけた際に購入したキーホルダーを、鞄の内ポケットに付けているのだ。

教科書を取り出すついでに、キーホルダーを外してから制服のポケットに仕舞い込む。

あまりの愛くるしさに、こまめに見られるように忍び込ませたのだ。

「王子おはよ」

驚いて顔をあげれば、眠たげに瞼を擦る雅リアの姿があった。 まさか教室でも声を掛けてくるとは思わなかった。

学園の王子と破天荒なピンク髪の美人転校生。 一見何の接点もない二人の絡みに、当然辺りがザワザワとどよめき出す。

「え、無視?」 「お、おはよう…」 「なんで驚いてんの」

相変わらず派手なピンク髪をしている彼女は、コンビニ袋から紙パックのアップルティーを取り出しつつ、何故かなつめの前の席に座ってしまう。

「王子、土日は何してたん」 「妹と遊びに行ってた」 「妹いるんだ。何歳?」 「3個下で今中学2年生」 「似てる?」 「どうだろう…系統は違うかな」 「まあ王子の妹なら絶対可愛いか」

咄嗟に嫌な考えが過ぎって、思わず眉間に皺を寄せる。

サラサラのロングヘアに、モデルというだけあって整った容姿。 可愛らしい女の子が好きな彼女が妹に手を出しやしないかと警戒してしまうのだ。

グッと顔を近づけて、雅リアにしか聞こえないくらいのボリュームで低い声を漏らす。  「妹に手出すつもり?」 「嫉妬?」 「別にシスコンじゃない。ただ、姉として…」 「じゃなくて、私が王子じゃなくて妹に手出したら寂しいのかなって」 「は……?」

まるでなつめが彼女に好意を寄せているかのような物言いに、信じられない思いで彼女を睨み付ける。

何だこの勘違い女は、と教室じゃなければ大声で否定していた。

「あんたにだけは会わせないから」 「別に取って食ったりしないよ?」 「信用ない」 「ひっど」

かなり失礼な物言いをしても、相変わらず雅リアは傷ついた様子もなくヘラヘラしていた。

彼女の相手をするのも中々に大変だけど、必死に王子様ぶらなくて良いのは心理的に楽だった。

一歩空き教室に足を踏み入れれば、なつめは王子という役割から解放される。

ポケットに忍ばせていた買ったばかりのキーホルダーと、五十鈴南プロデュースのリップを取り出していた。