13話「その少女の理由」2 (1/2)

「サリー…」

食事を終えた少女に、リカルドは呼びかけた。ゴナンは無言で、テーブルの向かいの席で少女をじっと興味深げに見ている。少女は声をかけられていることに気付かない。

「サリー?」「……」「……ミリア王女?」「何でしょう?」

そう呼ばれて、少女はようやく気付いてリカルドの方を振り返った。そしてまた、自分の失態に気付く。

「やっぱり、あなたは…」

「…わ、わたくしは、ミリア王女の影武者の、サリーよ…」

しどろもどろで答える少女。これでは、なかなか話が進まない。

「わかった、影武者さん。ただ、影武者が影武者と自分で名乗ってしまうのはどうだろう。本物の振りをしてこその影武者ではないかな?」

「…ええ…、確かに、あなたのおっしゃるとおりだわ」

「…それに、あなたは恐らくとても素直な方で、嘘をつくのがあまり得意ではないようだ。サリーという偽名を使うのもいいけど、ミリアという名前は珍しい名ではないから、そのまま呼んでも構わないのかなと思うけど、どうかな?」

この調子だと偽名ではすぐにボロが出そうだと思い、リカルドはそう提案する。

「…ええ、そうね」「…では、実は王女の影武者である普通のミリアさんとして、お話するね。あなたは今、世を忍んでいるようだから、敬語も礼も省かせてもらうよ」「もちろんよ、『ただのミリア』として、お願いしたいわ」

そう言ってしゃんと背筋を伸ばすミリア。

正直、「実は王女の影武者である普通のミリアさん」なんて謎の設定、筋は全く通ってはいないのだが、とにかく会話を進めるために無理矢理押し通してしまった。とはいえ、振る舞いには隠せない品があるんだよなあ…、と微笑ましく思っていると、ゴナンが声をかけた。

「え、お前、王女様?なのか…?」

「ゴナン! 流石に『お前』というのは…」

「お前呼ばわり」が無礼だと怒り出さないか心配したが、ミリアは特に気にはしていないようだ。むしろ、「普通」に扱われて嬉しそうでもある。

「ゴナン様、わたくしは影武者よ」「ミリア、人を呼ぶときに『様』はない方がいいよ。ちょっと高貴な方の雰囲気が出てしまう」「あら、そうね。では、ゴナン」自分の『設定』のチェックをしてくれるリカルドに、ミリアは少し楽しそうに従う。

「あらあら、王女様なんて、お城の上でふんぞり返っている高飛車なお方なのかと思っていたけど、なかなか懐が深い方でらっしゃるのね」

そう言いながら、ナイフが全員分の飲み物をお盆に載せて、テーブル席に来た。

「ああ、王女の影武者さんだったわね。私はナイフよ、よろしく」

卓上に飲み物を並べる、鍛え上げた男性の体躯と女性らしい振る舞いを兼ね備えたナイフを見て、ミリアは即座に尋ねる。

「ナイフさま…、ナイフ。ええと、あなたを示すときは、『彼』と呼ぶべきかしら、『彼女』と呼ぶべきかしら。こういうことは最初に確認しておかないと、あとで不快な思いをさせてしまうのもよくないから」

「まあ」

そう感激してリカルドを見るナイフ。この年齢にしてこの洗練された振る舞いは、流石である。