第7話 (1/2)
「な、なんてこった...」
ロイは首がおかしくなるのではないかというくらい、キョロキョロと辺りを見回しながら歩いていた。今はリーシャが休んでいるという部屋に案内されている。
突然の原因不明の火事により、リーシャとアリアは炎の渦に巻き込まれた。治療のために運び込まれたのは、医者ではなく『王室』だった。
「ロイ様、こちらでございます。」
部屋へと着き、案内役がの規則的なリズムでノックする。
「王子、リーシャ様の兄上様をお連れいたしました。」
「入ってくれ」
部屋の中からは何度も聞いた青年の声。彼がこの国の王子だということは、ここに来る途中で聞いたが、あまりの衝撃にロイは一時言葉を失ったほどだった。
騎士団の若き団長で、自分の酒の飲み仲間になってくれそうだと思っていた青年が、まさかこの国の王子様だったなんて。
「ロイ、よく来てくれた。リーシャはまだ目を覚さないが、容体は落ち着いている」
「リーシャ!」
リーシャの眠るベットには、ルイのほかに、下の弟のライルと、末っ子のアリアが。
アリアは疲れが出たのか、リーシャの横で共に眠っている。二人が寝てもまだ広い、大きなベットで丁寧に寝かされていた。
「兄さん、家のほうは...」
「...もうダメだ。明日の朝明るくなったら、無事なものが無いか見に行こう。まぁ、あの家もずいぶんガタが来てたからな。建て直して父さんたちびっくりさせようぜ!」
俺に任せろ、と笑顔でライルに声をかけたロイ。ライルもそれに応えるように、大きくうなづき笑顔を見せる。
「王子様、その、本当に何度もお世話になってしまい申し訳ない。」
「やめてくれロイ、酒を酌み交わした仲じゃないか。ルイで良い。」
ルイはそう微笑みかけると、先ほどライルに話したように、自分が用意し管理する仮住まいで、しばらく警護させてくれと改めて申し出た。
「ロイ、ライル、アリアについては十分な警護の下、邸宅に移ってもらえればとおもうのだが...。リーシャはこのまま城で保護させてもらえないだろうか。」
「リーシャを?」
「言いにくいのだが...。今回の火事はリーシャの口封じをするため...。殺すための放火かもしれない」
「なんだって?!」
ロイが思わず大声をあげ、それと対照的にライルは驚きのあまり絶句する。ルイは言葉を選びながら、一連の流れを説明した。
闇猟りの犯人の貴族たちのこと。リーシャが犯人と接触していること。火事の前に怪しい人物の目撃証言があったこと。
一つ一つ説明をするたび、ロイは拳を握りしめ、怒りに震えていた。ライルは妹を失うかもしれなかったという恐怖に顔を歪ませ苦しんでいた。
「もちろん、犯人が捕まるまであなたたちの身も城のものが護ります。しかしリーシャは犯人の顔を見ていて、かつ犯人に顔を見られている。より強力に守らなければ」
ルイは、いいだろうか?と聞いたが、そもそもロイとライルに選択肢はない。
ロイは感謝しながら、ルイにリーシャを託した。
「まずは...リーシャが目覚めなくては」
「ぅう〜ん...むにゃ...」
アリアの可愛い声と寝返りに、やっと三人は顔を見合わせて笑った。
***
コンコンー・・・
「かまわん、入れ」
ロイ、ライル、そしてライルに抱かれたアリアが今日から仮住まいをする邸宅へ向かってから数時間後。
ルイは相変わらずリーシャに付き添って寝室にいた。
そこへ、王室内を取り仕切る室長と、政務の他、管理の全てを任されている大臣が入ってくる。
室長は先ほど、ルイに出て行けと怒鳴られたばかりで、スカートの裾を少し強めに握りしめながら大臣の後ろに隠れるように立っていた。大臣はというと、ルイに強い眼差しを向け、決死の覚悟で口を開いた。
「王子、室長から簡単に話は聞きました。この娘が妃候補というわけですか?」
「はぁ...またその話か...。大臣も事情はわかっているだろう。もうどうでも...」
「よくございません!」
大臣の厳しい口調で放った言葉は、ルイを少し驚かせた。普段このように厳しい物言いをする人間ではないのだ。いつもニコニコと、当たり障りのない発言をする、所謂八方美人なところが特徴であったからだ。
「すでに貴族派の回し者が、王子が寝室に若い女を連れ込んで寝かせている、と言いふらしております」
「はぁ?!」
「今は国王陛下の体調が優れないとの噂が飛び交っており、どこの人間も過敏になっているのです。王位継承権一位のルブラン様を少しでも陥れようと...。貴族派は動くチャンスを探しております。」
ルイはそう言われると、表情を苦いものへと変えた。頭の片隅で、ルイ自身も分かっていたのだ。自分の軽率な行動は、敵に隙を見せてしまう。
王子のスキャンダルなど、相手の大好物だ。
しかし、あの場ではこうするしかなかった。時折苦しそうに呻くリーシャを、一刻も早くベットに寝かせてやりたかった。ルイの部屋は医務室とさほど離れてはおらず、医師も行き来しやすい。目の前に最適なベットがあるのに、使わずにはいられなかった。
「適齢期の...年頃の女性は王子の寝室には入れては行けない規則です。下手をしたら、規律を乱す行為だと、くだらない批判をされかねません。一定の職や身分が無くこの部屋に入れるのは、妃候補の方だけなのです」