第4話 (1/2)

「なにっ?!王子様が?!」

「あぁ、ヘーゼル伯爵が捕まった。村の娘が現場を見ていたという話だ」

「お、俺たちは?!俺たちは見られて無いよな?!」

「おそらく....しかし、その娘、危ないかもしれんな。口封じをしておかないと....」

リーシャの家で皆が楽しく夕食をとっていた夜、とある貴族の屋敷では、男数人が部屋にあつまり、声を落として何やら話を進めていたー・・・

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「王子、本日は午前の政務会議の後、ランチとなりますが、そのランチは隣国セルフィート王国の第四姫君であらせられるマチルダ様との会食に変更となりました」

「はぁ...またか。キース、なんとかしろ」

「なんともなりません」

平然とした顔で、ルイの命令をピシャリと跳ね除けるキース。彼は王都保安騎士団の指揮官でもあり、王子であるルイの専属の世話役でもある。

ふたりは同い年の20歳。王子と騎士、などという任の無い幼少の頃より共に育ち、この王国の正常かつ豊かな繁栄のため力を合わせてている。

「王子の気持ちも分かりますが、通常の王子でしたらば18歳の時点で妃候補は決まっているもの。しかしながら、のらりくらりとかわし続けて早2年。王室の女たちが焦り始めるのも無理ありません」

「のらりくらりって....俺は国王のためとおもって政務に励んでいただけだ。」

国の威信にかかわるため、極秘ではあるが、王はもう長く無い。体調を崩す日も多くなり、政務の数も抑えている。一部の人間は水面下で準備を進めている、国王の退位、ルイの即位の話は加速度を増していた。

国王とルイは共にそれを理解しており、政務の引き継ぎを前々から進めていたのだ。結果、妃選びの優先度は下がり、今日まで伸びてしまったのであった。

「そろそろ逃げられませんよ。先日国王も、さっさと婚姻を結び孫の顔が見たいと溢しておられました」

「なっ!何言ってんだあのおやじ!」

城は今日も妃、妃で一色。

ルイはもちろんうんざりしていた。

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「ルブラン様は、どんな紅茶がお好きですか?」

「そうですね、あまり詳しくはありませんが、甘味のないすっきりとしたものが...」

「まぁ!私もですのよ。お気に入りの茶葉がありますの。でも今日な持参しておらず...。次回お待ちしてもよろしいかしら?」

『次回』を作りたいマチルダ姫と、苦笑いでかわし、『次回』は無いと言いたげなルイ。

今回の“お見合い“もうんざりだ。

(そういえば先日、リーシャの家で食べたスープうまかったな。骨で出汁をとるなどと難しいことを言っていたが...城の料理長にでも作らせてみようか....)

マチルダがなにやら必死に横で話しているが、ルイは全く別のことを、リーシャの家で過ごした夜のことを思い出しては考えていた。

(リーシャ、赤くなったり青くなったり表情を変えながら話すの可愛かっ.....)

ルイはハッとなり自我を取り戻す。今自分は何を考えていた?村娘を可愛いと思い出し、思わず頬を染めそうになっていた。くだらないことを。

ただあの日から、よくリーシャの顔が浮かぶようになっていた。とくに深く話したわけでも無い。ルイがリーシャになにか言うと、恥ずかしさからか俯いて、あまり取り合ってもらえなかったくらいだ。

けれど、ふとした時のリーシャの仕草に心惹かれていた。飲み干されたスープの器に気づいたリーシャが、何も言わずともおかわりを足してくれたり。空になったワインのグラスに、いつのまにか控えめな追加が注がれていたり。うとうとと頭を揺らすアリアを優しく抱き上げベットへ運ぶ姿も。

優しさに溢れたリーシャの動きを、ルイはずっと、こっそり観察していたのだ。

「今日は...元気かな」

「ええ!マチルダはとても健やかですわ。ルブラン様は?」

「え?!あ、あの、はい。健やかです。」

漏れていた声に動揺するルイ。

横についていたキースにもそれは聞こえており、少し眉を上げるのであった。

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「リーシャ、畑仕事や水汲みのことだけど。やはりリーシャとアリアは家に残って家事をやってくれ。俺はライルを連れていくから大丈夫だ」

闇猟りの一件があってから、ロイは妹二人を心配し、しばらく一人で畑仕事をしていた。それを見かねたリーシャは、もう熱りも覚めたから大丈夫だと手伝いを申し出るが、ロイは断っていた。

「でも、ライ兄さんは無理できない体だわ。畑仕事なんて....」

「大丈夫だよリーシャ。僕も対して役に立たないだろうけど、水汲み程度ならできるさ。」